データが解き明かす訪日客の本音!インバウンド集客を成功に導く「顧客視点」の作り方

円安を追い風に、多くの外国人観光客が日本を訪れています。
街には様々な言語が飛び交い、観光地はかつての賑わいを取り戻しつつあります。
経営者や店舗オーナーの皆様にとって、このインバウンド需要はまさに千載一遇のチャンスと言えるでしょう。

しかし、ここで一つ、胸に手を当てて考えてみていただきたいのです。
「私たちが提供している『おもてなし』は、本当に海外からのお客様の心に届いているのだろうか?」

良かれと思って用意したサービスが、実は求められていなかったり、文化の違いから不快に思わせてしまったり…。
そんな悲しいすれ違いは、決して珍しいことではありません。
コロナ禍を経て、旅行者の価値観は大きく変化しました。
単に有名な観光地を巡る「モノ消費」から、そこでしかできない特別な体験を求める「コト消費」へ。
そして、その体験に深い意味や共感を求める「イミ消費」へとシフトしています。

これからのインバウンド集客で成功を収めるために不可欠なのが、「顧客視点」と、それを客観的に裏付ける「データ分析」です。
この二つは、いわば車の両輪。
どちらが欠けても、ビジネスを前進させることはできません。

本記事では、感覚的な「おもてなし」から一歩踏み出し、データという羅針盤を手に、訪日客一人ひとりの心に響くサービスを提供するための具体的な方法を、事例を交えながら分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたのビジネスを新たなステージへと導くための、確かなヒントが手に入っているはずです。

第1章:なぜ「顧客視点」がインバウンド集客の出発点なのか?

1-1. 思い込みの「おもてなし」が生む、悲しいミスマッチ

「日本のおもてなしは世界一」。
そう信じることは素晴らしいことですが、時としてその思い込みが、お客様との間に溝を作ってしまうことがあります。

例えば、ある老舗旅館での出来事です。
良かれと思い、夕食の際には仲居さんがお客様の部屋に付きっきりで料理を運び、一品一品丁寧に説明をしました。
しかし、欧米から来たカップルのお客様からのアンケートには、「プライベートな時間を邪魔されているようで、落ち着いて食事ができなかった」という意外な声が。
彼らにとっては、二人きりの静かな食事の時間こそが、何よりの贅沢だったのです。

私たちは無意識のうちに、自分たちの文化や常識が「当たり前」であり「正しい」と思い込んでしまう傾向があります。
しかし、文化が違えば、価値観も、快適だと感じる距離感も全く異なるのです。
この旅館はその後、データ分析と顧客へのヒアリングを徹底。
食事の提供方法を「付きっきりで説明するプラン」と「最初に説明だけして、あとはお客様のペースで楽しんでもらうプラン」から選べるようにしたところ、顧客満足度が劇的に向上したそうです。

1-2. 訪日客が本当に求めている「体験」とは何か?

お客様を国籍でひとくくりにするのではなく、「一人ひとりの旅行者」として見つめることが重要です。
彼らは何を求めて、はるばる日本へやって来るのでしょうか。

それは、SNSで「いいね!」がもらえる写真映えだけではありません。
ガイドブックには載っていない路地裏の小さな居酒屋で、店主と片言の英語で笑い合った経験。
田舎の農家で、地元のお母さんと一緒に郷土料理を作った時間。
そうした「人との温かい交流」や「その土地の日常に溶け込む体験」こそが、何物にも代えがたい一生の思い出になります。

ある地方の工芸品店では、ただ商品を売るだけでなく、職人がろくろを回す様子を間近で見学できる工房ツアーを開始しました。
言葉は通じなくとも、真剣な眼差しや繊細な手つきは、万国共通の感動を呼びます。
ツアーに参加したお客様は、職人への尊敬の念から、ごく自然に商品を購入していきます。
これは、単なる購買ではなく、職人の物語や技術への共感が動機となった「イミ消費」の好例です。

1-3. 「ペルソナ設定」で、お客様の顔を具体的に描こう

「顧客視点に立つ」と言っても、相手が漠然としていては、具体的な施策は生まれません。
そこで有効なのが「ペルソナ」(※注2)の設定です。

(※注2) ペルソナ (Persona): 商品やサービスの典型的なユーザー像を、具体的な人物のように詳細に設定したもの。

例えば、以下のように具体的な人物像を描いてみましょう。

  • 名前: ソフィア
  • 年齢: 32歳
  • 国籍: フランス・パリ在住
  • 職業: グラフィックデザイナー
  • 旅行スタイル: 夫と二人旅。派手な観光地よりも、静かで美しい自然や、その土地の文化・芸術に触れることを好む。
  • 情報収集: Instagram、旅行ブログ、友人からの口コミ。
  • 悩み: 日本語が全く話せないので、地方への個人旅行に不安を感じている。

このようにペルソナを設定すると、「ソフィアさんなら、どんな情報を喜ぶだろう?」「彼女の不安を解消するために、何ができるだろう?」と、自然と相手の立場に立ったアイデアが湧き出てきます。
例えば、「英語対応可能な送迎サービスを用意する」「周辺のおすすめカフェや美術館をまとめた、デザイン性の高いオリジナルマップを作成する」といった具体的な施策に繋がります。
これは、相手に「共感」することで、より的確なアプローチを可能にする、行動心理学に基づいた有効な手法です。

第2章:感覚を裏付ける「データ分析」という最強の武器

顧客視点という「仮説」を立てたら、次に必要なのが、その仮説が正しいかどうかを検証するための「データ」です。経験や勘も大切ですが、データに基づかない経営は、羅針盤のない航海と同じです。

2-1. 宝の山はどこにある?インバウンドデータ収集の第一歩

「データ分析」と聞くと、難しそうだと身構えてしまうかもしれません。
しかし、実は無料で、あるいは低コストで始められることがたくさんあります。

  • 公的データ: 日本政府観光局(JNTO)や観光庁が発表する統計データは、国別の訪日客数や消費動向など、マクロな視点で市場を把握するのに非常に役立ちます。
  • 無料ツール:
    • Google Analytics: 自社のウェブサイトにどの国から、どんなキーワードでアクセスがあるのか、どのページが人気なのかが一目瞭然です。
    • Google Trends: 世界中の人々が、日本の何に興味を持っているのかを検索数の推移から知ることができます。
    • SNSのインサイト機能: InstagramやFacebookでは、フォロワーの国籍、年齢層、投稿への反応などを分析できます。
  • 自社データ:
    • 予約・購買データ: どの国の人が、いつ予約し、何を購入したか。リピーターはいるか。
    • アンケート: お客様の満足度や、改善してほしい点を直接聞くことができます。
    • 口コミサイト: Booking.comやTripadvisorなどに投稿されるお客様の生の声は、サービスの強みと弱みを教えてくれる貴重な情報源です。

2-2. データから見える訪日客の「足跡」と「本音」

これらのデータを組み合わせることで、お客様の行動の裏にある「本音」が見えてきます。

例えば、ウェブサイトのアクセス解析で、特定の東南アジアの国からのアクセスが非常に多いにもかかわらず、予約に全く繋がっていないことが判明したとします。
なぜでしょうか?
仮説として、「そもそもサイトがその国の言語に対応していない」「その国で一般的なオンライン決済手段が使えない」といった可能性が考えられます。

また、口コミサイトで「スタッフは親切だったが、部屋のWi-Fiが遅くて困った」という書き込みが複数あれば、それは改善すべき明確なシグナルです。
現代の旅行者にとって、快適なインターネット環境は、清潔なベッドと同じくらい重要なインフラなのです。
こうした口コミは、未来のお客様の意思決定に大きな影響を与えます。
良い口コミも悪い口コミも、真摯に受け止め、改善に繋げることが信頼を築く第一歩です。

2-3. 改善を止めない!最強のフレームワーク「PDCAサイクル」

データを集めて満足していては意味がありません。
大切なのは、分析結果を次のアクションに繋げ、継続的に改善していくことです。
そのための強力なフレームワークが「PDCAサイクル」です。

  1. Plan(計画): データ分析に基づき、「東南アジア向けの決済システムを導入すれば、予約が10%増えるのではないか」といった仮説と具体的な施策を立てる。
  2. Do(実行): 計画に沿って、新しい決済システムを導入する。
  3. Check(評価): 導入後、実際に予約数がどう変化したかをデータで測定・評価する。
  4. Action(改善): 評価結果に基づき、「効果があったので継続する」「予約は増えたが、今度は別の課題が見つかったので、次はそこを改善しよう」と、次の計画に繋げる。

このサイクルを回し続けることで、サービスは継続的に磨かれ、お客様の満足度も向上していきます。
小さな改善の積み重ねこそが、大きな成功へと繋がるのです。

第3章:言葉の壁を越える「心」のコミュニケーション

顧客を理解し、データで裏付けが取れたら、最後はそれを「伝える」フェーズです。

3-1. 多言語対応のその先へ、「やさしい日本語」という選択肢

ウェブサイトやメニューの多言語化は、今やインバウンド対応の基本です。
しかし、すべての言語に対応するのは現実的ではありません。
そこで、ぜひ知っていただきたいのが「やさしい日本語」です。

やさしい日本語とは? 難しい言葉を避け、文の構造を簡単にするなど、普通の日本語よりも簡単で、外国人にも分かりやすいように配慮した日本語のことです。

例えば、飲食店の入り口でよく見かける「お気軽にお立ち寄りください」という表現。
日本人にとっては自然な言い回しですが、日本語を学び始めたばかりの外国人には意味が分かりにくいかもしれません。
これを「どうぞ、入ってください。見てみるだけでもいいです。」と言い換えるだけで、ぐっと伝わりやすくなります。

  • 例1:「こちらのレジにてお会計をお願いします」
    • →「ここで おかねを はらいます」
  • 例2:「少々お待ちください」
    • →「ちょっと まってください」

「やさしい日本語」は、英語が母国語ではない国からのお客様や、日本語を少しだけ話せるお客様とのコミュニケーションの架け橋となります。
「あなたに伝えたい」という気持ちが、何よりのおもてなしになるのです。

3-2. 人との出会いが、最高の旅の思い出を創る

結局のところ、インバウンド集客のゴールは、売上を上げることだけではありません。
私たちのサービスを通じて、お客様に日本のことをもっと好きになってもらうこと。
そして、「またこの人に会いに、この場所に戻ってきたい」と思ってもらうことです。

データ分析は、お客様を深く理解するための強力なツールです。
しかし、データの向こう側にいるのは、一人ひとりの感情を持った人間であることを、決して忘れてはいけません。
データから見えたお客様の姿に思いを馳せ、どうすれば喜んでくれるだろうかと心を配る。
その温かい想像力こそが、AIには真似できない、人間ならではの価値であり、最高のおもてなしを生み出す源泉なのです。

まとめ:データと心で紡ぐ、これからのインバウンド戦略

インバウンド集客という大海原を航海する上で、「顧客視点」は目的地を示す北極星であり、「データ分析」は現在地と進むべき航路を教えてくれる羅針盤です。

まずは、あなたのお店や会社を訪れてくれるお客様は、一体どんな人たちなのか、改めて見つめ直すことから始めてみましょう。
そして、Google AnalyticsやSNSのインサイトを覗いて、彼らの「足跡」を辿ってみてください。
きっと、これまで気づかなかった多くの発見があるはずです。

一つひとつのデータは、お客様からの声なきメッセージです。
そのメッセージを丁寧に読み解き、改善を重ねていく先にこそ、お客様との強い信頼関係が築かれ、ビジネスの持続的な成長が待っています。

異文化交流の醍醐味は、違いを乗り越え、心が通じ合った瞬間の喜びにあります。
データと心を両翼に、世界中から訪れるお客様を温かく迎え入れ、忘れられない素晴らしい日本の思い出を、一緒に創り上げていきましょう。

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