インバウンドを魅了する「目的地」となる地域の共通戦略3選 なぜ彼らは「わざわざ」その地方を選ぶのか?

インバウンドコンサルタントの視点から、実践的な集客戦略をお届けします。

インバウンド観光であなたの地域は「ゴールデンルート」の“ついで”になっていませんか?

インバウンドの活況が報じられる昨今、多くの経営者様がその恩恵を感じていらっしゃることでしょう。
しかし、その一方で、「正直、うちの地域までは来てくれないよ」と、諦めに似たため息が聞こえてくることも少なくありません。

確かに、東京・京都・大阪を結ぶ「ゴールデンルート」は、初めて日本を訪れる外国人観光客にとって鉄板のコースです。
アクセスが良く、情報も多い。
それに比べて、自分の地域は「不便だ」「有名じゃない」「何もない」…。

もし、あなたがそう感じているとしたら、それは「心理的近視眼」に陥っているサインかもしれません。
これは、自分の置かれた状況や固定観念にとらわれ、目の前にあるはずの大きな可能性を見失ってしまう心理状態です。

事実、今、世界中の旅慣れたインバウンド層は、その「ゴールデンルート」から溢れ出し、まだ見ぬ日本の「本物」を求めて、積極的に地方へと足を伸ばしています。

彼らは「ついで」に立ち寄るのではありません。
その地域を「目的地」として、わざわざ選んで来てくれるのです。

なぜ、彼らは「不便」かもしれない場所を選ぶのか。
そこには、運や偶然では説明できない、明確な「選ばれる理由」が存在します。
この記事では、インバウンドを魅了し続ける地域に共通する「3つの戦略」を、具体的な事例や行動心理学の視点を交えて解き明かしていきます。

戦略1:「不便さ」を「希少性」へ転換する、唯一無二の物語(ブランディング)

インバウンドを呼べない地域が陥りがちな最初の罠は、「あれもこれも」と手を出してしまうことです。
「うちには温泉もあるし、美味しい魚もあるし、歴史的な建物も少し…」という総花的なアピールは、結局、「どこにでもありそうな場所」という印象しか与えません。

一方、「わざわざ来る地域」は、「捨てる」勇気を持っています。

彼らは「何でもある」とは言いません。
「ここには、世界でこれ(ひとつ)しかない」と断言します。
そして、一見「弱み」に見える要素こそ、最強の「武器」に変えているのです。

  • 事例:直島(香川県) かつては「アクセスが不便な、産業廃棄物処理の島」というネガティブなイメージさえありました。しかし、「アート」という一つの軸で島全体を再定義。今や、その「不便さ」こそが「日常から切り離されたアートの聖地へ向かう巡礼の旅」という「希少性」を演出し、世界中のアートファンがわざわざ時間をかけて訪れる「目的地」となりました。
  • 事例:白川郷・高山(岐阜県) 「冬は豪雪に見舞われる」「山奥でアクセスが良くない」。この「不便さ」が、結果として古き良き日本の原風景(合掌造りや古い町並み)を奇跡的に保存させました。彼らは「最新の設備」で勝負するのではなく、「ここでしか見られない、失われた日本」という「本物(オーセンティシティ)」の物語を徹底的に磨き上げたのです。

【行動心理学:希少性の原理】 人は、「手に入りにくいもの」「限定的なもの」ほど、その価値を高く見積もる傾向があります(希少性の原理)。「不便だからこそ価値がある」「ここでしか体験できない」というメッセージは、旅慣れたインバウンド層の「他人とは違う特別な体験をしたい」という欲求を強く刺激します。

あなたの地域にある「不便さ」「古さ」「何もなさ」は、見方を変えれば、他にない「静けさ」「本物の歴史」「手つかずの自然」という「希少性」ではありませんか?

戦略2:「見る(Sightseeing)」から「なる(Experience)」へ。地域社会に溶け込む体験設計

高単価インバウンド層の記事でも触れましたが、現代の旅行者は「見る」だけの受動的な観光(Sightseeing)に飽き足らなくなっています。
彼らが求めているのは、その土地の文化や人々の暮らしに深く入り込み、一時的に「その土地の一員になる」かのような能動的な体験(Experience)です。

「わざわざ来る地域」は、この「体験」のデザイナーとして非常に優れています。

  • 事例:農泊(ファームステイ) 単に「田舎の風景を見る」だけではありません。「農家さんと一緒に畑で野菜を収穫し、その場で採れたてのトマトをかじり、夜は囲炉裏を囲んで一緒に料理を作る」。この体験は、どんな高級レストランの食事よりも強烈な「本物の日本」の記憶として刻まれます。 これは行動心理学の「IKEA効果」(自分で組み立てたり、関与したりしたものに高い価値を感じる心理)にも通じます。自分で収穫した野菜で作った食事が格別に美味しいのと同じです。
  • 事例:地域の祭りへの「参加」 祭りを「観客席から見る」のではなく、「地元の人と一緒に法被(はっぴ)を着て、神輿を担ぐ準備を手伝う」プログラムを提供している地域があります。言葉が通じなくても、汗を流し、同じ目標に向かうことで生まれる一体感。これこそ、彼らが求めている人と人との「出会い」であり、異文化交流の喜びの神髄です。

重要なのは、立派な施設を作ることではありません。今ある「日常の暮らし」そのものを、彼らにとっての「非日常の体験」として開放し、デザインし直すことなのです。

戦略3:「待ち」から「届ける」へ。熱量を伝える戦略的デジタル発信

どれほど素晴らしい物語(戦略1)と体験(戦略2)を用意しても、それがターゲットに届かなければ、存在しないのと同じです。特に地方都市の情報は、海外では圧倒的に不足しています。

「わざわざ来る地域」は、かつての「パンフレットを作って観光案内所に置く」といった「待ち」の姿勢とは真逆です。彼らは、「攻め」のデジタル発信を行っています。

  • ポイント:「誰に」届けるかを明確にする 「外国人」とひとくくりにせず、ターゲットを徹底的に絞り込みます。 例えば、「北海道・ニセコ」は、オーストラリアの「パウダースノーを愛するスキーヤー」という極めて具体的なターゲットに照準を合わせ、彼らが見る専門誌やコミュニティサイトで「世界最高の雪質」という情報を集中的に発信し、熱狂的なファンコミュニティを形成することに成功しました。
  • ポイント:「何で」届けるかを最適化する ターゲットが見ているプラットフォームで発信しなければなりません。
    • 欧米の旅行者(リサーチ重視):権威ある旅行ブログ、YouTubeでの詳細なVlog(動画ブログ)、Googleマップの口コミ。
    • アジアの若年層(流行・ビジュアル重視):Instagramでの「映える」写真、TikTokでのショート動画。
    • 台湾(コミュニティ重視):Facebookグループ、現地のインフルエンサーとのタイアップ。

【行動心理学:社会的証明(Social Proof)】 この戦略で最も強力なのは「社会的証明」です。「行政が『来てください』と言う」のではなく、「自分と同じ国(あるいは、自分が憧れるライフスタイル)の旅行者が、あの場所で最高に楽しんでいる姿」をSNSやブログで見ること。これが、「私もあの場所へ行かなければ!」という最も強い動機付けとなります。

あなたの地域は、「誰に」来てほしいですか? その人は、今、どのSNSを見ていますか?

3つの戦略を束ねる「やさしい日本語」という温かいインフラ

さて、これら3つの戦略(物語、体験、発信)がうまく機能し、お客様が「わざわざ」あなたの地域に来てくれたとします。

しかし、最後の最後で、彼らを失望させてしまう最大の落とし穴があります。
それは、「コミュニケーションの壁」です。

地方に行けば行くほど、英語や多言語の表示は少なくなりがちです。
「バスの乗り方が分からない」「メニューが読めない」「緊急時に何をすべきか分からない」。
この不安と疎外感は、せっかくの素晴らしい体験を一瞬で台無しにしてしまいます。

ここで最強の武器となるのが、繰り返しお伝えしている「やさしい日本語」です。
何もまちの人全員に英語を話してもらう必要はありません。

完璧な英語の看板を巨額の費用をかけて整備するよりも、今すぐできる「やさしい日本語」でのサポートが、彼らの心をどれだけ温めるか計り知れません。

  • (通常の日本語):「この先、土足厳禁です。スリッパに履き替えてください」
  • (やさしい日本語):「ここで くつを ぬぎます。スリッパを つかってください。(靴とスリッパの絵記号を添えて)」
  • (通常の日本語):「ラストオーダーは20時半、21時閉店となります」
  • (やさしい日本語):「たべもの・のみもの。さいごの ちゅうもん 8:30 PM。みせ おわり 9:00 PM」

この「伝えよう」とする姿勢こそが、「歓迎されている」という何よりのメッセージになります。
これはもはや単なる情報伝達ではなく、地域全体で取り組むべき「おもてなしのインフラ」であり、戦略1(物語)と戦略2(体験)の価値を決定づける最後の仕上げなのです。

まとめ すべての地域は「目的地」になる可能性を秘めている

「外国人がわざわざ来る地域」とは、決して「有名な観光地がある場所」のことではありません。

  1. 自らの「弱み」を「強み(=物語)」として再定義し、
  2. 旅行者を「お客様」としてではなく「友人」として迎え入れる「体験」をデザインし、
  3. その熱量を、届けるべき相手に「デジタル」で確実に届けている。

そして、それらすべての土台として、「やさしい日本語」という温かいコミュニケーションのインフラが整備されている。

これが、彼らにとっての「目的地」となる地域の共通戦略です。

あなたの地域には、まだあなた自身も気づいていない「物語」が眠っています。
あなたの「日常」は、海外の誰かにとっての「特別な体験」です。

【行動心理学:ピーク・エンドの法則】 人の記憶は、「最も感情が動いた瞬間(ピーク)」と「最後の瞬間(エンド)」によって決定づけられると言います。「わざわざ」来てくれた旅の最後に、あなたの店で交わした「やさしい日本語」での温かい会話。それこそが旅の「ピーク」となり、彼らを熱烈なリピーターに変えるのです。

「どうせ来ない」と諦める前に、まずはあなたの地域の「物語」を私たちと一緒に探すことから始めてみませんか?

まずはお気軽にお問い合わせください
おすすめの記事