
あなたの店は「外国人」とひとくくりにしていませんか?
新型コロナウイルスの長いトンネルを抜け、日本の観光地は再び多くの訪日外国人(インバウンド)観光客で賑わいを見せています。
円安も追い風となり、街を歩けば、大きなスーツケースを引く人々や、楽しそうに写真を撮り合う姿が目に入ります。
この絶好のチャンスを前に、多くの経営者様が「うちもインバウンド集客を強化したい」と考えていらっしゃることでしょう。
しかし、その第一歩で大きなつまずきを経験するケースが少なくありません。
それは、「訪日外国人」とひとくくりにしてしまう誤解です。
アメリカからのお客様と、台湾からのお客様、そして韓国からのお客様。彼らが日本に求めるもの、旅マエ(旅行前に情報を集める段階)で利用するメディア、そして心に響く「おもてなし」の形は、驚くほど異なります。
もし今、あなたが「外国人向けの英語メニューを一つ作っておけば大丈夫だろう」とお考えなら、それは非常にもったいない機会損失を生んでいるかもしれません。
この記事では、なぜターゲット国別の対策が不可欠なのか、そして具体的にどのようなプロモーションが成功を収めているのか、具体的な事例を交えながら、明日から実践できるヒントを分かりやすく解説します。
単なる売上アップのためだけではありません。
異なる文化背景を持つお客様一人ひとりと真の「出会い」を創出し、あなたのビジネスの熱烈なファンになっていただく。
そのための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
1. なぜ「国別」の対策がこれほど重要なのか?
「同じ人間なのだから、良いものであれば伝わるはずだ」——その考え方は半分正しく、半分間違っています。
もちろん、商品の質やサービスの心遣いといった本質的な価値は重要です。
しかし、その価値を「知ってもらう」ための入り口が、国によって全く異なるのです。
価値観と旅行スタイルの違い
例えば、欧米(アメリカ、ヨーロッパ)からの観光客は、比較的長い休暇を取得し、日本文化の「本質」や「オーセンティック(本物の)な体験」を深く知りたいという欲求が強い傾向があります。
彼らに響くのは、単なる割引情報ではなく、その商品が持つ歴史や、職人のこだわりといった「ストーリー」です。
一方、韓国からの観光客は、週末や短い休暇を利用して訪れることが多く、「今、流行っているもの」「SNS映えするもの」に対する感度が非常に高いのが特徴です。
スピード感が求められ、いかに「今すぐ行きたい!」と思わせるかが鍵となります。
情報収集プラットフォームの違い
あなたは新しいレストランを探す時、何を使いますか?多くの方はGoogleマップや食べログ、Instagramかもしれません。
しかし、国が変われば「当たり前」も変わります。
- 中国: GoogleやInstagram、X(旧Twitter)は利用できません。情報収集は「WeChat(微信)」や「RED(小紅書/シャオホンシュー)」といった独自のSNSや、「Baidu(百度)」という検索エンジンが主流です。
- 韓国: 「NAVER(ネイバー)」という独自の検索エンジンと、その中の「NAVERブログ」が絶大な影響力を持っています。Instagramも非常に人気です。
- 台湾: Facebookの利用率が非常に高く、個人のインフルエンサーや日本の情報を発信するFacebookグループが大きな影響力を持ちます。
- 欧米: Google検索(SEO対策※)とGoogleマップ、そしてYouTubeでの旅行Vlog(動画ブログ)、旅行口コミサイトの「TripAdvisor(トリップアドバイザー)」が非常に重要です。
(※SEO対策:Search Engine Optimizationの略。Googleなどの検索エンジンで、自社のウェブサイトが上位に表示されるように行う施策のこと)
このように、あなたがどれだけ素晴らしいサービスを用意していても、お客様がいる場所(プラットフォーム)で、お客様が求める情報(価値観)を発信しなければ、その存在は「無い」のと同じになってしまうのです。
2. 【事例研究】ターゲット国別プロモーション成功の鍵
では、具体的にどのようなプロモーションが成功しているのでしょうか。ここでは3つの国・地域をピックアップして、成功の鍵を探ります。
事例1:台湾市場 →「親密さ」と「リピーター戦略」
特徴: 訪日リピーター率が非常に高い(コロナ前は8割以上が訪日2回目以上)。親日家が多く、日本の地方都市や「人情(人の温かさ)」に触れる旅を好む傾向があります。
成功の鍵: 台湾市場で強いのは、FacebookやInstagramです。特に、「中の人の顔が見える」発信が効果的です。
ある地方の温泉旅館の事例です。
彼らは当初、美しい風景や豪華な料理の写真ばかりをFacebookに投稿していましたが、反応は今ひとつでした。
そこで、コンサルティングを通じて戦略を変更。
「女将が毎日館内の花を生けている様子」や「板長が地元の農家さんと新しいメニューについて笑顔で語り合う姿」など、スタッフの日常や想いを、温かみのある(少し拙くても構わない)繁体字中国語(台湾の公用語)で発信し始めました。
【心理学的アプローチ:好意の返報性】 すると、「去年泊まった時、あの女将さんにお世話になった!」「Aさん、元気そう!」といった、まるで友人に語りかけるようなコメントが急増しました。これは、心理学でいう「好意の返報性」です。人は、相手から好意や親密さ(この場合は「素顔を見せる」という行為)を示されると、それに応えたい(「いいね!」やコメント、再訪)という気持ちが働きます。
彼らにとって、その旅館は単なる「宿泊施設」ではなく、「知人がいる場所」に変わったのです。
結果、リピーターが激増し、台湾からの宿泊客が全体の3割を占めるまでに成長しました。
事例2:アメリカ・欧米市場 →「本物の体験」と「ストーリーテリング」
特徴: 長期滞在型。消費額も大きい。単なる「観光(Sightseeing)」ではなく、「体験(Experience)」を重視します。「自分だけの特別な物語」を求めています。
成功の鍵: 彼らへのアプローチは、Google検索(SEO)とYouTubeが中心です。彼らは旅行前に徹底的にリサーチします。
例えば、ある日本酒の酒蔵。以前は「酒蔵見学と試飲」という一般的なツアーのみでした。しかし、欧米客の「もっと深く知りたい」というニーズに応え、「杜氏(とうじ:酒造りの責任者)と語る、1日限定の酒造り体験(英語ガイド付き)」という高単価なプログラムを開発しました。
プロモーションは、派手な広告ではなく、欧米の旅行系YouTuberやブロガーを招待し、その「体験」をリアルにレポートしてもらう形を取りました。
【心理学的アプローチ:自己実現の欲求】 映像では、参加者が実際に米を蒸し、杜氏の哲学に耳を傾け、最後は自分の名前が入った(まだ熟成前の)ボトルを受け取る姿が描かれます。これは、マズローの欲求5段階説における「自己実現の欲求」を刺激します。「私は、ただ日本酒を飲んだだけではない。その文化と哲学の一部になった」という深い満足感と「語れるストーリー」を提供したのです。
このプログラムは高額にもかかわらず予約で埋まり、彼らが帰国後に発信する口コミ(TripAdvisorや個人のブログ)が、さらなる新しいお客様を呼び込む好循環を生み出しました。
事例3:韓国市場 →「スピード感」と「SNS映え(バエ)」
特徴: 流行に非常に敏感。物理的な距離が近いため、週末などで気軽に訪れます。「今、これが流行っている」という情報(=社会的証明)に強く動かされます。
成功の鍵: 圧倒的にInstagramです。NAVERブログも重要ですが、視覚的に「カワイイ!」「美味しそう!」「行きたい!」と瞬時に思わせる力が求められます。
東京のあるカフェの事例です。彼らは「韓国の若者に流行しているスイーツ」を徹底的に研究し、季節限定の「抹茶とイチゴのビジュアル系パフェ」を開発しました。
ポイントは、その商品を「韓国語のハッシュタグ」(例: #東京カフェ #抹茶スイーツ など)と共にInstagramに投稿したことです。さらに、在日の韓国人留学生や小規模なインフルエンサーに声をかけ、実際に食べに来てもらい、その感想をリアルタイムで投稿してもらいました。
【心理学的アプローチ:希少性と社会的証明】 「季節限定」という「希少性」と、「お洒落な人たちがすでに行っている」という「社会的証明」(Social Proof)が組み合わさり、情報は瞬く間に拡散。その週末から、投稿を見た韓国人観光客が「あの写真のパフェください」と押し寄せる事態となりました。彼らにとって、そのカフェに行くこと自体が「トレンドに乗っている」証であり、旅行の目的の一つになったのです。
3. 多言語対応の「その先」へ:「やさしい日本語」という架け橋
国別のプロモーションが重要である一方、現地での受け入れ体制も欠かせません。
多くの方が「多言語対応=英語」と考えがちですが、ここに大きな落とし穴があります。
世界中で英語を母国語としない人の方が圧倒的に多いのです。
また、完璧な英語メニューやパンフレットを用意するにはコストも時間もかかります。
そこでお勧めしたいのが、「やさしい日本語」での情報提供です。
「やさしい日本語」とは、難しい言葉を避け、文法をシンプルにし、必要に応じてひらがなやカタカナを使ったり、文を短く区切ったりして、日本語学習者や子供、高齢者にも分かりやすくした日本語のことです。
なぜ「やさしい日本語」なのか?
- 温かみが伝わる(心理的安全性): 完璧だが冷たい機械翻訳の英語よりも、拙くても「伝えよう」としてくれる「やさしい日本語」の方が、お客様は「歓迎されている(Welcomeだ)」と感じます。これは心理的安全性(安心して過ごせる感覚)に繋がり、店舗への好感度を格段に上げます。
- アジア圏の観光客に特に有効: 特に、漢字文化圏(台湾、香港、中国)や、日本語学習者が多い(韓国、東南アジア)国々からのお客様にとって、「やさしい日本語」は英語よりも格段に理解しやすいケースが多いのです。
- すぐに実践できる: 専門の翻訳業者に頼む必要がありません。
<「やさしい日本語」実践例>
- 通常の日本語: 「店内でお召し上がりですか? お持ち帰りですか?」
- やさしい日本語: 「ここで たべますか? もって かえりますか?」 (指差しで「EAT IN?」 「TAKE OUT?」と併記すれば完璧です)
- 通常の日本語: 「恐れ入りますが、お会計はあちらのレジにてお願いいたします。」
- やさしい日本語: 「おかねは あそこ です。おねがいします。」 (レジを指差しながら)
このように、「やさしい日本語」と「指差し」や「写真」を組み合わせるだけで、コミュニケーションの質は劇的に向上します。
これは、単なる情報伝達ではなく、人と人との「出会い」をデザインする行為です。
言葉が完璧に通じなくても、お互いに理解しようと努力した瞬間は、お客様にとって忘れられない「日本での温かい思い出」となるのです。
4. あなたが今日から始められる第一歩
「国別の対策も、やさしい日本語も、何だか大変そうだ…」と思われたかもしれません。
しかし、完璧を目指す必要はありません。大切なのは、小さな一歩を踏み出すことです。
今すぐできるファーストステップ:
- 観察する: まず、今あなたのお店に来ている外国人観光客が「どこの国から来たか」を(可能なら)尋ねてみましょう。あるいは、Googleマップの口コミやInstagramのタグ付けをチェックし、どの言語での投稿が多いかを確認します。
- 一つに絞る: 最も多そうな国(あるいは、これから呼び込みたい国)を一つだけ選びます。
- 真似る: その国(例:台湾)の人が、日本旅行で使いそうなキーワード(例:「大阪 美食」「京都 必買」)で、InstagramやFacebookを検索してみます。彼らがどんな写真に「いいね!」をしているか、どんな情報を求めているかを研究します。
- 試す: まずは「やさしい日本語」で、一番伝えたい情報(例:「おすすめは これ です」「トイレは あそこ です」)を一つだけ、手書きで良いのでポップを作ってみましょう。
この小さな試行錯誤が、大きな成功への第一歩となります。
まとめ インバウンド集客は「技術」ではなく「出会いの演出」である
インバウンド集客は、単に「外国語の看板を出す」ことではありません。
それは、「あなたのビジネスが、どの国のお客様と、どのよう出会い、どのような素晴らしい体験を共有したいか」を設計する、クリエイティブな活動です。
台湾のお客様の「また来るね!」という笑顔。
アメリカのお客様の「こんな体験は初めてだ」という興奮。 韓国のお客様の「これを友達に自慢しなきゃ!」という輝く目。
これらはすべて、お客様の国の文化や価値観を尊重し、彼らの「心に響く」プロモーションと言葉を選んだ結果です。
そして、そのコミュニケーションの架け橋となる「やさしい日本語」は、あなたの「おもてなしの心」を最も温かく伝えるツールとなります。
まずは、あなたのお店に来てほしい「あの国」のお客様の顔を思い浮かべることから始めてみませんか?
私たちは、その「素敵な出会い」の実現を、専門家の知見と温かいサポートで全力でお手伝いします。
一緒に、世界中のお客様との素晴らしい交流を創り出していきましょう。