2025年以降のインバウンド動向と地方への影響:中小経営者が知るべき「わが社」のための戦略

2025年、私たちは新たな経済の波の中にいます。
コロナ禍を経て、日本のインバウンド(訪日外国人旅行)市場は驚異的な回復を遂げ、かつてない活況を呈しています。
特に、東京や大阪といった大都市だけでなく、地方にもこの大きな経済効果が波及し始めています。

しかし、「インバウンド」と聞くと、「大企業の話だろう」「うちは関係ない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
それは大きな誤解です。むしろ、地方の中小企業や個性的なお店こそ、このインバウンド市場で大きなチャンスを掴む可能性を秘めているのです。

本コラムでは、2025年以降のインバウンドの最新トレンドを分かりやすく解説し、特に地方の中小企業の皆様が、この波を「わが社」の成長にどう結びつけるべきか、具体的な戦略と実践的なヒントを、インバウンドの経営コンサルタントとしてお伝えします。

第1章:2025年以降、訪日外国人は「何を求め」「どこへ行くのか」?

まずは、これからのインバウンド市場の大きな変化を理解しましょう。
これまでとは異なる新しいニーズが生まれています。

1-1. 「モノ消費」から「コト消費」へ:体験に価値を見出す時代

かつての「爆買い」に代表される「モノ消費」(商品を買うこと)は、今や過去のトレンドになりつつあります。
2025年以降の訪日外国人旅行者が求めるのは、「コト消費」(体験やサービス)です。

これは、単に商品を買うだけでなく、その土地ならではの体験や思い出を重視する消費行動です。
例えば、以下のようなものが挙げられます。

地域の文化体験

茶道、着物着付け、陶芸体験、日本酒の酒蔵見学、伝統芸能鑑賞など

自然の中でのアクティビティ

ハイキング、サイクリング、スキー、カヌー、星空観察など

地元の食体験

郷土料理教室、地元食材を使ったレストランでの食事、農家での収穫体験など

地元の人々との交流

地元の祭りへの参加、温泉地での地元の人との触れ合い、居酒屋での交流など

なぜこの変化が起きているのでしょうか?
一つは、SNSの普及です。
旅行者は、SNSで「映える(写真や動画で魅力的に見える)」体験や、友達に自慢できるようなユニークな思い出を求めています。
また、リピーターが増えたことも要因です。
一度日本に来たことのある人は、定番の観光地を巡るだけでなく、もっと深く日本の魅力を知りたいと思うようになります。

貴社の事業で提供できる「体験」は何でしょうか?
商品を売るだけでなく、その商品が生まれる背景にある物語や、それを体験できる機会を提供できないか考えてみましょう。

1-2. 地方への分散化:セカンドシティとスロートラベルの波

これまでのインバウンドは、東京、大阪、京都といった大都市に集中していました。
しかし、2025年以降は、この流れが大きく変わってきています。

  • セカンドシティ観光:
    大都市ではなく、地方の中核都市やその周辺地域(例えば金沢、広島、福岡、札幌など)を訪れる旅行者が増えています。
    大都市の混雑を避け、より落ち着いた環境で日本の魅力を味わいたいというニーズが高まっているのです。
  • スロートラベル:
    短期間で多くの場所を巡る「駆け足旅行」ではなく、一つの地域にじっくりと滞在し、その土地の日常や文化に溶け込むような旅のスタイルです。
    コロナ禍を経て、よりゆったりとした、心豊かな旅を求める傾向が強まりました。地方の豊かな自然や、そこに暮らす人々の温かさは、スロートラベルを志向する旅行者にとって大きな魅力となります。

これは、地方に位置する中小企業の皆様にとって、まさに追い風です。
これまで大都市の陰に隠れていた地域の魅力が、訪日外国人旅行者の目に留まる機会が増えているのです。

第2章:中小企業・お店がインバウンドで掴む「具体的なチャンス」

では、貴社や貴店がこのインバウンドの波に乗るために、具体的にどのようなチャンスがあるのでしょうか?

2-1. 地域の「日常」や「文化」が商品になる

地方には、大都市にはない独特の魅力があります。
それは、歴史ある町並み、豊かな自然、伝統的な工芸品、その土地ならではの食材、そして何より、そこに暮らす人々の温かい交流です。

例えば、

老舗の飲食店

地元の食材を使った郷土料理や、その土地でしか味わえない限定メニューは、外国人旅行者にとって特別な体験です。
調理体験や、店主との交流をコンテンツに加えることもできます。

伝統工芸品店

商品を売るだけでなく、制作過程の見学や、簡単な手作り体験(例:絵付け、小さな小物作り)を提供することで、工芸品の背景にあるストーリーを伝え、より深い感動を与えられます。

宿泊施設(旅館、民宿)

大規模ホテルにはない、家庭的なおもてなしや、地元の人との交流は、外国人旅行者にとって「日本らしい体験」として非常に魅力的です。
着物体験や地元の食材を使った料理教室などを併設するのも良いでしょう。

地域密着型サービス業

自転車レンタル店、釣り船、農業体験農園など、地域の自然や特色を活かしたサービスは、コト消費の需要に直結します。

小売店

地元の特産品や、日本製にこだわった商品を扱うことで、外国人旅行者の購買意欲を刺激できます。
お土産だけでなく、持ち帰りやすい食品や日用品も需要があります。

貴社の事業が提供できる「地域の日常」や「文化」に焦点を当ててみましょう。
それは、ありふれた日常こそが、外国人旅行者にとっては非日常の「特別」な体験となるからです。

2-2. 新たな顧客層の獲得と消費単価の向上

インバウンド客は、これまで貴社がアプローチできなかった新たな顧客層です。
彼らは、良い体験や質の高いサービスには、喜んで対価を支払う傾向があります。

  • 高単価商品の販売機会:
    国内顧客には高価に感じられる商品でも、外国人旅行者にとっては「価値ある体験」や「特別な思い出」として購入されやすくなります。
  • リピーターの育成:
    良い体験を提供できれば、SNSで拡散され、新たな顧客を呼び込むだけでなく、その旅行者自身が何度もリピートしてくれる可能性があります。

第3章:中小企業・お店が今すぐ始めるべき具体的な対策

では、このチャンスを掴むために、具体的に何をすれば良いのでしょうか?
大きな投資や専門知識がなくても、できることはたくさんあります。

3-1. 小さな一歩から始める「受け入れ準備」

まずは、外国人旅行者が貴社や貴店を「見つけ」「利用しやすくする」ための準備です。

  • ウェブサイトの多言語化(英語から):
    • まずは英語だけでも構いません。Google翻訳などの無料ツールを使い、簡単な説明だけでも英語で表示しましょう。
    • 営業時間、場所、提供サービス、料金など、基本的な情報だけでも英語で掲載するだけで、外国人旅行者はぐっとアクセスしやすくなります。
    • オンライン予約システムがあれば、それも英語対応に。
  • 店舗表示・メニューの多言語化:
    • 入口に「Welcome」の表示や、英語の営業時間を貼るだけでも違います。
    • メニューは、写真と英語の簡単な説明を併記するだけでもOKです。無理に全品翻訳しなくても、人気商品やおすすめメニューだけでも対応しましょう。
  • キャッシュレス決済の導入:
    • 外国人旅行者は、現金を持ち歩かない人が多いです。クレジットカードはもちろん、WeChat Pay、AlipayといったQRコード決済に対応できると、機会損失を減らせます。POSレジによっては対応可能なものもありますので、まずはレジ業者に相談してみましょう。
  • 無料Wi-Fiの提供:
    • 旅行者にとって、インターネット接続は命綱です。無料Wi-Fiを提供することで、滞在中の利便性が格段に上がり、SNSでの情報拡散にもつながります。

3-2. 「地域ならでは」の魅力を効果的に発信する

貴社の魅力が外国人旅行者に伝わらなければ意味がありません。

  • SNSを最大限に活用する:
    • Instagram、Facebook、TikTokなど、写真や動画で魅力を伝えられるSNSは、インバウンド誘致に非常に効果的です。
    • 英語での短いキャプションを添え、美しい写真や動画を積極的に投稿しましょう。ハッシュタグ(#JapanTravel #VisitJapan #地域名 #JapanCulture など)を効果的に使うと、外国人旅行者に見つけてもらいやすくなります。
    • 外国人インフルエンサーに依頼するのも一つの手ですが、まずはご自身で気軽に発信を始めてみましょう。
  • 「ストーリー」を伝える:
    • 貴社の商品のこだわり、歴史、作っている人の想い、地域の風景など、背景にあるストーリーを積極的に伝えましょう。
    • 例えば、飲食店なら「地元農家さんの新鮮野菜を使用」「創業〇年の伝統の味」といった説明は、外国人旅行者の興味を引きます。
    • 工芸品店なら、「この地域でしか採れない素材を使っています」「職人が一つ一つ手作りしています」といった情報が、商品の価値を高めます。
  • 地域の観光協会との連携:
    • 地域の観光協会は、インバウンドの情報を集約し、プロモーションを行っています。積極的に連携し、貴社の情報を登録してもらいましょう。共同で外国人向けのツアーを企画することなども可能です。

3-3. おもてなしの心とコミュニケーション

完璧な英語を話す必要はありません。大切なのは、おもてなしの心です。

  • 簡単な英語フレーズを学ぶ:
    • 「Hello!」「Thank you!」「May I help you?」「Please wait a moment.」など、日常的な挨拶や接客で使える簡単な英語フレーズを、スタッフ全員で覚えましょう。
    • 指差し会話帳翻訳アプリ(Google翻訳など)を活用すれば、英語が苦手でも十分にコミュニケーションが取れます。
  • 異文化理解を深める:
    • 訪日外国人旅行者は、様々な国から来ています。彼らの文化や習慣を少し知るだけで、よりスムーズなコミュニケーションが取れます。例えば、チップの習慣がないこと、宗教上の食事制限がある場合があることなど、基本的な知識を持つだけでも良いでしょう。
  • 笑顔とアイコンタクト:
    • 言葉が通じなくても、笑顔とアイコンタクトは万国共通のおもてなしです。親しみやすい雰囲気は、外国人旅行者に安心感を与えます。

第4章:小さな成功事例に学ぶヒント

大々的なプロモーションをしなくても、工夫次第でインバウンド客を呼び込んでいる地方のお店はたくさんあります。

  • 地方の小さなカフェ: 美しいラテアートと、店主の笑顔の接客がSNSで話題になり、外国人旅行者がわざわざ訪れるようになった。英語のメニューは簡単なものでも、写真映えする商品と温かいおもてなしが成功の鍵。
  • 地方の民宿: 食事の際に、女将さんが地元の食材を英語で説明したり、簡単な文化体験(浴衣の着付けなど)を提供したりすることで、口コミで人気が広がった。「日本の家庭に泊まったような体験ができた」という声が多く聞かれる。
  • 地方の自転車レンタル店: 英語のウェブサイトと、サイクリングマップを多言語で用意。周辺の絶景スポットや、立ち寄れる地元の飲食店情報などを提供することで、「地方でサイクリング体験をしたい」というニーズを捉えた。

これらの事例に共通するのは、「特別な設備」よりも「小さな工夫」と「おもてなしの心」です。
貴社の持つ強みや魅力を再認識し、それをどうすれば外国人旅行者に届けられるかを考えてみましょう。

まとめ:未来の顧客は、もうすぐそこに

2025年以降、地方におけるインバウンドの可能性は無限大です。
大企業のような大きな戦略は必要ありません。
貴社や貴店の「強み」を活かし、「小さな一歩」から着実に準備を進めることが重要です。

  • 「体験」を軸に考える: 貴社の事業で提供できるユニークな「コト」は何でしょうか?
  • デジタルで「見つけてもらう」: 英語対応のウェブサイトやSNSでの情報発信を始めましょう。
  • 「おもてなし」の心で迎える: 完璧な言葉よりも、笑顔と翻訳ツールで温かく迎えましょう。

インバウンドは、単なる一時的なブームではありません。
日本の地方経済を活性化させるための、持続的な成長エンジンとなり得るものです。

私たちインバウンド専門の経営コンサルタントは、皆様の事業がこの大きな波を捉え、新たな顧客層を開拓し、持続的な成長を遂げるための具体的なサポートを提供いたします。

「うちは関係ない」ではなく、「うちはどうすればできるだろう?」と考えてみてください。
未来の顧客は、もうすぐそこに、貴社や貴店を求めてやってくるはずです。

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